井上尚弥:モンスター

 彼こそは真のチャンピオン。挑戦に名乗りを挙げたボクサーが、そう表現するのだからその強さは本物中の本物だ。4団体統一を成し遂げ、全ての王座を返上して階級を上げて再びチャンピオンを目指す。4階級を制覇した時、このまま引退したらレジェンドになれる、でも、とインタビューで語っていた。戦い足りないのだろう。以前にも書かせていただいたが顔がきれいだ!ボクサーとは思えない。根性とガッツの鍛錬ではなく、科学的なトレーニングで強い身体を創っておられるのだろう。知性を感じる。何となく研究者の顔立ちを感じる。生き様もチャンピオンとしてのあり方も「あしたのジョー」のイメージではない。・・・もう古いかな?

 

 バウンド・フォー・バウンドと呼ばれたチャンピオンは日本にはいない。彼が初めてだろう。世界を見渡すと4階級制覇とか5階級とか、偉業を成し遂げたチャンピオンは多い。しかし軽量級といわれるバンタムやフェザーは、「スーパー」といわれたチャンピオンもことごとく階級の壁に阻まれている。これも古いかもしれないが、カルロス・サラテとウイルフレド・ゴメス。同じくルペ・ピントールとゴメス。そのゴメスもサルバドル・サンチェスに敗れている。何百グラムの体重差にも相当なエネルギーの差があるのだろう。これはやった人にしかわからない。

 

 ボクシングは、自分は打たれずに相手を打つスポーツだ。小さい頃偶然だが、お手本のような試合をテレビで見た。ジュニアミドル級なので日本人としては体重の重い階級、そしてカエル跳びで有名な輪島功一が手に入れた日本伝統の階級だった。チャンピオンは日本人。自衛隊出身の工藤政志、挑戦者はアフリカ人アユブ・カルレ。チャンピオンがリングの四方に向かって丁寧にお辞儀をして入場し、当時は珍しいアフリカ人の挑戦者でやはり日本式に一礼して入場した。威張ったり威嚇したりせず、物静かな挑戦者だった。試合が始まり、まさに「自分は打たれずに相手を打つ」美しいアウトボクシングで挑戦者が圧倒。3-0判定で王座奪取だった。気になって挑戦者のプロフィールを調べたら、来日してからもトレーニングの合間にずっと読書をするような人だったらしい。ファンになった。何度か防衛した後に、S,Lレナードという、これまたスーパーなウエルター級チャンピオンに敗れることになる。

 

 和製レナード。人気と実力はそう言って差し支えないと思う。ちょっとボクサーとしてのタイプは違うけれど。いや、今の井上選手の方が「強さ」を感じる。