タイムトラベル

 あれから28年。若かったから乗り切れた阪神淡路大震災。2度と味わいたくはないが。大切な人を地震で失った方々は例え夢物語であろうとタイムトラベルができるなら、たとえ5分前でも1分前でもあの日に戻りたいと切に思っておられるだろう。被災した直後は私たちもよくそう考えた。あの日は確か月曜日で前の週に結婚式を挙げた友人が、ちょうどその時刻は飛行機の上で難を逃れた、そういう人たちもいる。1日かけて避難をする中でいやがおうでも助け合う絆を感じたこともある、が今にして思えばその時は必死で余裕がなくきっと後で学習を積んで再構築された考えなのだ。きっと何ども心のタイムトラベルをしていたに違いない。

 

 以下 新聞記事の抜粋。

 

 私たちは普段時間は戻らないものと思い込んでいる。失われた30年、何かをやり直したい、という想いを持つ人は多い。HGウエルズの「タイムマシン」筒井康隆時をかける少女」SFの名作に心を躍らせた人は洋の東西を問わずだ。

 

『学校は母から放さるる場所なりと 知りぬ母逝きてのち』

『葉の間に いちやうの緑き実の見えて 新しき過去かがやくごとし』

 

 時間は一直線に流れているように見えて、人の気持ちのうえでは渦巻きながら行きつ戻りつしていると感じます。「今」を過ぎ去ったものではなく、常に更新される新しいものととらえると、完成や好奇心が光り輝く。

 

 過去が現在を照らすこともあるのです。  ・・・・(栗木京子)・・『新しき過去』歌集

 

 人間は時間を取り戻せない。だが、長い人生の中で過去の記憶を何ども味わい望むように生き直すことができる。

 

 以上 讀賣新聞 2023年1月○日